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2012年12月19日 (水)

ベクロニウムの分子量は、557.82で、m/z279(分子イオンにプロトンが付加した2価イオン)のイオンであります。

この事件で有罪とされた唯一の証拠とされる大阪府警察本部科学捜査研究所で検出されたベクロニウム(筋弛緩剤マスキュラックスの主成分)を質量分析した結果、m/z258のイオンが検出されたとされているが、

弁護団は、m/z557(1価の分子イオン)かm/z279(分子イオンにプロトンが付加した2価イオン)のイオンが検出される。したがって大阪府警の検出したものは、ベクロニウムではないと主張しました。

仙台高裁判決文5ページから9ページ

(2)本件各鑑定自体の評価
   本件各鑑定を行った土橋吏員及び西川吏員は,本件各鑑定を行うための十分な学識と経験を有しており,その研究成果に基づき本件各鑑定もなされているもので,原判示のとおり本件各鑑定の手法,過程,及び結果に疑問とする点はなく,本件各鑑定は合理的で妥当なものとして是認できるのであり,所論指摘の点を検討しても,これが左右される点は認められない。
(3) 外国論文4点及び鑑定意見書について
   弁護人は,ベクロニウムの質量分析に関する外国論文4点(当審弁52ないし55)及び福岡大学医学部医学教室教授影浦光義作成の鑑定意見書(=影浦鑑定意見書)(当審弁56)に照らし本件各鑑定結果が信用性がない,と証拠意見する。すなわち,本件各鑑定は,m/z258をプリカーサイオンとしているが,標記外国論文4点によれば,ベクロニウムをLC/MSないしLC/MS/MSで質量分析した場合,ベクロニウムの分子量約557から導かれるm/z557(1価の場合)かm/z279(2価の場合)のイオンが検出され,m/z258のイオンが検出されたとする記載がない,ベクロニウムの分子量からみて,m/z258その他のイオンが検出されたとしても,そのことが当該イオンがベクロニウムに由来するとはいえない,したがって,鑑定資料から検出したイオンm/z258等を根拠として,その資料にベクロニウムが含まれていたと判断することはできない,などというのであり,また,影浦鑑定意見書によれば,影浦教授も本件各鑑定においてm/z258のイオン及びそのプロダクトイオンの出現から,これをベクロニウムであるとしたのは間違いであるとした上,西川,土橋吏員らの論文では,何故構造の類似したベクロニウムとパンクロニウムが異なった機序でイオン化するのか納得し得る科学的根拠が見いだせない,などとしていることからみて,本件各鑑定書には信用性がないと証拠意見するのである。

 しかしながら,土橋吏員の証言(第23回)によれば,LC/MS/MSにおいては,分析の過程で電圧,カラムなどの分析条件や使用器具に関し同じ条件で分析すれば,検出されるイオンの種類,発現時間は同一になるが,条件が変われば結果も変わるというのであるから,分析条件に関わらず分子量関連イオンが必ず検出されるといえない。
  土橋吏員らの分析方法は所論指摘の日本法中毒学会の雑誌「法中毒」1999年5月号に,「パンクロニウムとベクロニウムの分析方法」(=西川・土橋論文)(当審弁51)として掲載,発表されているのであり,本件各鑑定もこの手法によるものであるが,影浦鑑定意見書が指摘するまで,これが誤りであるとの指摘がなされてきたことがうかがわれず,その再現性,有効性が承認されてきたことがうかがわれる。
  
そして,土橋吏員らは,薬毒物の鑑定は年間150件くらい行い,これまで筋弛緩剤の鑑定は15件,資料の点数にして50点くらいの経験があり,うち生体資料の鑑定は10件くらいで,筋弛緩剤が検出された例は3件くらいあるというのであり,その薬毒物分析の実務経験を通し,LC/MS/MSの特性を踏まえた最良の分析条件と思われる条件を把握しており,これを生かしながら,分析装置及び分析条件を同一にして,鑑定資料を分析する郁度標品のベクロニウムについても分析をする必要性を強調した上,同一条件で,標品のベクロニウムで検出されたイオンの種類,発現時間と試料のそれとを対照して同一性の判定をしているのであり,べクロニウムからm/z258のイオンが出現していることを疑う理由はない。         
  なお,土橋吏員の証言(第24回,第25回)によれば,本件各鑑定において,各鑑定資料からベクロニウムの未変化体が分離・検出されていることが認められるから,m/z258のプリカーサイオンが,本件各鑑定資料中に存在したベクロニウムの脱アセチル化した変化体に由来するものでないことは明らかである。
 
これに対し,影浦鑑定意見書は,前記のとおりの意見を提出しているのであるが,影浦教授がこれまでどの程度ベクロニウムの分析経験を有するのか不明であるばかりでなく,添付資料から見て,その試験条件について,その装置が西川・土橋論文ないし本件各鑑定書と同様の装置を用いたか不明であり,分析条件が異なることは明らかである。影浦教授が,構造の類似したベクロニウムとパンクロニウムが異なった機序でイオン化するのを納得し得る科学的根拠が見いだせないからといって,西川・土橋論文が分析条件を呈示し,ベクロニウムであることが疑いようがないベクロニウム標本からm/z258のプリカーサイオンを得ているのに,同様の装置及び分析条件を用いてその再現性を確認しないで,自己の分析試験から西川・土橋論文の手法,結果を非難するのは一面的であり,本件各鑑定の信用性を損なうものとはいえない。
  さらに,外国論文4点は2000年以降に公表されたものであり,そのうち2000年に公表された当審弁55の論文は,ベクロニウムの検出についてはその代謝産物である3―デスアセチル―ベクロニウムを検出する方法が数件報告されているのみであるという時点のもので,ベクロニウムについて二価イオンを記載しているものであり,2002年以降公表された残る3論文は,ベクロニウム等の4級窒素筋弛緩薬について,いずれも6種類,7種類,8種類の多種類の筋弛緩薬を抽出し検定,あるいは検定,定量する方法を開発したとするものであって,そのうち,例えば,当審弁53によれば,4級窒素筋弛緩薬の抽出は困難であるとされ,文献報告された分析方法のほとんどは1ないし2種類の化合物を抽出するのに適した条件で実施されているが,同論文著者らは,7種類の4級窒素緩弛緩薬の一般的な抽出方法による検出方法を見付けたとし,当審弁52,54も同様の指摘や成果を報告しているのであり,これらの記載からも1ないし2種類の化合物を抽出するのに適した分析条件とは異なることがうかがわれるのであり,その実験条件の記載をみても,土橋吏員らのそれと同一ではないし,外国論文4点もベクロニウムからm/z258のイオンが出ることを否定しているわけでもない。
  さらに,外国論文4点及び鑑定意見書においては,ベクロニウムについてはm/z557ないしm/z279のイオンのみが検出されているが,上記各外国論文によっても他物質についてではあるが分子量関連イオン以外に分子の一部が開裂したイオンが検出されている例も見受けられるのであるから,分子量関連イオンのみが必ず検出されるといえないことは明らかである。
  また,外国論文4点及び影浦鑑定意見書の試験結果でも,フラグメントイオンには本件各鑑定と同様の249,356,398,416の1つまたは3つが出ているところ,弁護は,そのようなフラグメントイオンが出ていても,プリカーサイオンのm/z258が何に由来するか分からないから,ベクロニウムとはいえない,というが,本件各鑑定においては,ベクロニウムの標品自体からm/z258のイオンが出されて上記及び374のフラグメントイオンが出ており,本件各鑑定資料がこれと同様のプリカーサイオンで同様のフラグメントイオンを呈しているのであるから,ベクロニウムと認定した本件各鑑定に何ら信用性を疑う点はない。
  したがって,外国論文4点及び影浦鑑定意見書におけるLC/MS/MSないしLC/MSと分析条件等が異なることが明らかな本件各鑑定において,ベクロニウムの標品からm/z258のイオンが検出されたことが,不合理であるなどということはできないのであり,外国論文4点及び影浦鑑定意見書は本件各鑑定の信用性を左右するとはいえない。・・・・・・・・・・

この様に、土橋吏員は鑑定経験が豊富だが、影浦教授はどの程度経験があるか分からないから、土橋吏員の言っていることが正しいと認識して

さらに、「土橋吏員の証言(第23回)によれば,LC/MS/MSにおいては,分析の過程で電圧,カラムなどの分析条件や使用器具に関し同じ条件で分析すれば,検出されるイオンの種類,発現時間は同一になるが,条件が変われば結果も変わるというのであるから,分析条件に関わらず分子量関連イオンが必ず検出されるといえない。」と言うことは、科学とは何なのか全く理解していない裁判官の認識を露呈している。

分析して出てくる数値は、分析方法が正しければ誰が行っても同じ物質なら同じ数値であることは、科学の基本であることです。だからこそ原子量、分子量は、世界中どこでも同じ質量であるのです。裁判官は科学の基本すら理解していないことを露呈して有罪にしたのです。

参考までに、マスキュラックスの製造会社の臭化ベクロニウムの分子量は、637.73であります。  分子式は C34H57BrN2O4 です。

臭素の分子量(79.904)を除くとベクロニウムの分子量は557.82となります。

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